№002 「エピソードⅡ」森高多美子

三船選手は選手生活23年目になるという。なんという強靭さだろうと思う。その間、肉体をどう管理し、どうやって前向きな気持ちを持ち続けたのか。
 長く選手を続けている人には性格の面で、共通する特徴があるように思う。それは、笑いのセンスみたいなものじゃないかと思う。
2005年のツアーオブジャパン、富士山での個人タイムトライアルは平均勾配10.5%。はっきりいって、歩いて登るのも辛かった。途中、親しい選手に声をかけることもあったが、登りで勝負をかけている選手はもちろん声に応えている余裕などないし、ぜんぜん勝負になっていない選手は選手で、やっぱりぎりぎりいっぱいの状態で走っていた。
この日の三船選手は、タイムアウトにならないように走ることが目標。とにかく、スプリンターである彼の日ではない。
じりじりと照りつける陽射しのもと、のっしのっしと黄色いジャージが登ってくるのが見えた。「がんばってー」と手を振る私に三船さんから、ひと言
「日に焼ける〜」
な、なんのこっちゃ!?
 長く選手を続けていれば、全力で頑張る日と流すべき日があるはずだ。選手生活全体でのペース配分ともいえるだろう。集中するときはする。でも、笑っていいときは上手に笑って、次に備える。富士山での出来事は、それが強さの秘密かなと思わせる一幕だった。

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プロフィール
森高 多美子(もりたか たみこ)
スポーツライター
ツールド北海道にテーマを得た『逃げる男』で
2004年 Numberスポーツノンフィクション新人賞受賞。
自転車のほかサッカー、野球でも執筆中。

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